Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ちゅっ、ちゅっ、と。優しく唇が降ってくる。
額に、頬に、耳朶に、鼻先に。何度も、何度も、触れてくる。
いやらしさのない、可愛らしいキス。初めはとても心地がよくて、幸福だった。
それなのに、どんどん物足りなくなっていく。でも、ひたすら私を愛している彼に、そんな事を言えるはずがなかった。
「どうしたの?」
彼は優しく囁いてくる。それすらもじれったい。
「何でもない……」
純粋で綺麗な目。そんな目で見られたら、もっとほしいなんて言えるわけがなかった。
また、キスの雨が振り始める。触れてないところがなくなってしまうのではないかと思えるくらいに、場所を変えて、降り続ける。私の唇を除いて……。
どうして触れてくれない?一番心地のよいところに愛をくれない?私はこんなに貴方が欲しくて、求めているのに。
焦らされて、焦らされて…。
ようやく、彼は真っ直ぐに私を見た。形のいい唇が笑みを浮かべて近づいてくる。だけど、触れるか触れないかギリギリのところで、彼はとまってしまった。
「ねぇ、もっとよくばってもいいよ?」
温かな吐息が、とても誘惑的な言葉と共に吹きかかる。そんな刺激じゃ足りない。だけど、彼は動かない。
「ねぇ、きみはなにがほしいの?バベルにおしえて?」
少し時間に余裕が出来て机の上を片付けていたら、見慣れた手帳を見つけた。
しっかりと書き込めるタイプの茶色のシンプルな手帳。よくあるデザインだけど、これまで何回も見たことがあるから、見間違えるはずもなかった。
(これ、朔空君のだよね)
だって、朔空君はことある毎に記念日を作ってはここに書き込んでいるから、嫌でも覚えてしまった。
私が名前を呼んだ日、手を握った日、一緒に仕事から帰った日……数えだしたらキリがない。前は驚いていたけど、今では朔空君らしいと思えてしまうのは慣れてきたってことなのかな。
(私が知らない記念日もたくさんありそう……)
気付くと、私の手は無意識に朔空君の手帳に伸びていた。怖いもの見たさ…といえばいいのか。人のプライベートを覗くなんて駄目なんだけど、好奇心には勝てなかったみたい。
「わぁ…………」
おそるおそるページをめくると、中にはびっしりと文字や印が書き込まれていた。思っていた通りというか、それ以上というか。細かすぎてパッと見ただけでは内容までは分からなかったけど、直感で寒気がした。
(きょ…強烈だった)
しっかりと目を通すのは流石に怖くて、私はすぐに手帳を閉じた。心臓がバクバクと悲鳴を上げている。
一度落ち着こうと思って深呼吸すると、不意に肩を叩かれた。
「プロデューサーちゃん」
「っ!」
よりによって今一番会いたくない人の声がして、心臓が飛び出そうになった。
「さ、朔空君。どうしたの?」
何とか落ち着こうとしたけど、鼓動はどんどん乱れていく一方だった。
朔空君は不思議そうに私を見下ろしている。それが何だか内心を見透かされているような気がして、怖かった。
「プロデューサーちゃんこそ大丈夫?顔色悪いよ?」
「そ、そうかな。全然大丈夫だよ」
「…………本当に?」
朔空君から笑顔が消えた。これまでに数回しか見たことのない、怒っている時の顔だ。
間違いなく手帳を見たことがバレている。瞬時にそう察して、反射的に後ずさってしまった。すぐに後ろにあった壁に阻まれてしまったのだけど…。
「どうしたの?何で逃げようとするの?」
「えっと………」
「俺の手帳を見ちゃったから?悪いことをしたちゃったって思ってるの?」
ゆっくりと朔空君が近付いてくる。『早く謝らないと』って頭の中では思っているのに、体が震えて上手く言葉が出てこなかった。
「あのね、俺は別にプロデューサーちゃんにだったら何を見られても構わないって思ってるよ。寧ろ知ってくれて嬉しいって思ってるくらいだよ」
ダンッ、と顔の真横から鈍い音がした。朔空君の右手が私の顔の真横の壁に叩き付けられたからだ。
逃げられない。逃がしてはもらえない。自業自得なのは分かっているけど、背筋が凍りついた。
「ねぇ、そんな顔しないで。別にプロデューサーちゃんに酷いことをするつもりはないんだから。前に言ったでしょ。君の嫌がることはしないって。でもね……」
朔空君の左手が頬に添えられる。
「何の前触れもなく手帳を読まれたのはちょっと恥ずかしかったから、プロデューサーちゃんも同じくらい恥ずかしい思いをしてもらうよ。それくらいなら、いいよね?」
少しずつ近づいてくる朔空君に思わず目を閉じてしまった。キスされる…と思ったけど、熱い吐息が吹きかかったのは唇じゃなくて、耳だった。
「今日は俺がプロデューサーちゃんを暴いた記念日にしようか?」