Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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バベルはあのこがすき。だいすき。
だから、ずっと、ずっと、いっしょにいられるように、おにんぎょうをつくることにした。
「ねぇ、きみはバベルのこと、すき?」
これまでなんかいもきいてきたしつもん。あのこは、いつもうなずいてくれる。
きょうのへんじもいつもとおなじ。キラキラした、とてもあかるいえがおをうかべたまま、『もちろんだよ』といってくれた。
バベル、このひょうじょうすきだなぁ。
「ありがとう。バベルも、きみがすきだよ」
おにんぎょうさんにするなら、このかおがいい。
にこにこと、バベルにほほえんでくれるあのこを、ぎゅっとだきしめる。かみのけから、おはなと、おひさまのにおいがした。
「あのね、きょうはおねがいがあるの」
にげられないように、ぎゅーって、うでにちからをいれる。あのこも、バベルをだきしめかえしてくれた。うれしいなぁ。
あのこのぬくもりがどんどんつたわってきて、からだも、こころも、あたたかくなっていく。
もしも、おにんぎょうになってしまったら、このぬくもりはなくなっちゃう。にどと、かんじることができなくなる。それはとてもかなしいことだけど、あのこのぜんぶをよくばることは、きっとよくない。
だから、あのこのさいごのあたたかさを、たくさん、たくさん、たんのうした。それから、こっそりと、そばのてーぶるにおいてあった、ぱれっとないふにてをのばした。
「おねがい、バベルと、ずっと、ずっと、いっしょにいて?バベルの、バベルだけの、とくべつなおにんぎょうになって?」
こわくないように。いたくないように。
あのこがきづかないようにきをつけて、ぱれっとないふを、くびすじにはしらせた。まいにちおていれをしていたから、くびをきりさくのは、とてもかんたんだった。
あのこは、なにがおきたのかわからなかったみたい。ふしぎそうなかおで、ぼくをみあげていた。でも、あのこからふきだしたちが、かおをきょうふに、かえちゃった。
どくどくと、あのこのちが、たきみたいにあふれでてくる。なにかいおうとしたら、きずからくうきがにげて、ちしぶきをあげた。
ぼくも、あのこも、あっというまにまっかになってしまった。
あたたかい。バベルのほっぺにとびちったちは、きすをされたあとみたいに、すごくあつかった。
にんげんのちって、こんなにあたたかいんだね。しらなかったなぁ。
もしかしたら、あのこのからだのなかは、もっと、もっと、あたたかいのかもしれない。そうおもうとすこしだけきょうみがでてきたけど、せっかくのきれいなからだに、きずをふやしたくはないから、あきらめた。
「どうしたの?こわいの?バベルがそばにいるから、こわくないよ?」
だいすきだったえがおはどんどんなくなって。こわくて、なきそうなかおになっていく。
しかたがないよね。びっくりさせちゃったもんね。
でも、だいじょうぶ。きみがねむったあとで、あのかわいいかおにもどしておいてあげるから。
「ほら、めをとじて。いいこ、いいこ、してあげるから。そしたら、もうこわくないよ」
ちでよごれてしまったてで、あのこのめをおおう。はじめはていこうされたけど、それもすぐにおとなしくなった。
あのこが、かんぜんにうごかなくなるまで、ぼくはあたまをなでつづけた。ほんとうにおにんぎょうをあやしてるみたいな、ふしぎなきもちだった。
もう、ちはあふれてこない。からだもつめたくなったし、にどとこえもきけない。それがちょっとだけざんねん。
でも、それいがいの、あのこのぜんぶがバベルのうでのなかにある。それだけで、すごくしあわせだった。
「これからは、バベルがたくさんだいすきをあげるね」
これまできみからもらったぶんも、それいじょうのぶんも、たくさん、たくさん、だいすきをあげる。
まずは、よごれてしまったからだをきれいにしよう。ふたりでしゃわーをあびて、ちをあらいながそう。
そしたら、ぼうふざいをいれてくさらないようにして、みつろうをぬってひふをまもらなくちゃ。
あとは、おへやをきれいにして、あのこをかざるばしょをかくほしなくちゃ。かわいいいすにすわらせてあげたいな。
おようふくは…そうだ、うぇでぃんぐどれすにしよう。まっしろで、れーすがたくさんついたどれすをつくろう。
柄にもなく可愛らしいリップクリームをかってしまった。正しくは、心ちゃんにお揃いで買おうと押しきられたのだけれど…。
自分では絶対に選ばないような淡いピンク色のそれは、ほんのりと苺の香りがついている。試しに塗ってみたのだが、甘味の強いその香りは、やっぱり自分には似つかわしくないように思えてならない。
そもそも、15歳の青春真っ盛りな子ならまだしも、三十路が迫った大人が使うというのはどうなのだろうか。そんな抵抗感が拭えなかった。
「どうしたの?こわいかおしてる」
「へっ?」
考え事に没頭していたせいで、誰かが部屋に入ってくる気配に全く気がつかなかった。慌てて声のする方を見上げると、バベル君が不思議そうにこちらを見下ろしていた。
「すごくみけんにしわがよってるよ。くろみたい。なにかあったの?」
「あ、いや、特に何か困ってるとかではないんだけど……」
どうやら本気で心配している様子のバベル君に申し訳なさが込み上げてきた。同時に、そんなに険しい顔をしていたのか、と恥ずかしくもなった。
「ところで、バベル君はどうしてここにいるの?今日は授業はないの?」
「うん、きょうはうたのれんしゅうとらいぶのうちあわせだけ。さっきおわったところ」
「そうだったんだね。お疲れ様」
「うん。バベル、きょうもたくさんがんばった」
八の字に下がっていた眉が、緩やかな弧を描き、いつもの笑顔に戻る。何だか『誉めて』と言っているようか気がして、手を伸ばすと、彼は届くところまで身を屈めてくれた。
そのままよしよしと頭を撫で下ろす。
「ふふっ、きみになでられるの、すごくすき。うれしくて、こころがすごーくあったかくなる」
バベル君の笑顔がより明るくなっていく。
「それに、きょうはなんだかいいにおいがするね」
きっとさっき塗ったリップクリームの香りだろう。それを伝えようとしたが、それよりも先に彼は香りの元を嗅ぎ付けたらしい。
バベル君との距離が一気に近づいた。
あどけなさの残る顔をしているが、その整いすぎた面立ちは刺激が強すぎて、つい俯きがちになってしまう。
「バベル君、近い!近い!」
「ちかくない、ちかくない」
グイッと顔を持ち上げられ、唇に彼の鼻が触れそうになる。痛くないように力を加減しているみたいだったけど、逃がしてはくれそうになかった。
「ふふ、みつけた。ここ、すごくあまいかおりがする」
バベル君の綺麗な青い目に私が映り込む。
「ねぇ、いまきみにちゅってしたら、どんなあじがするかな?」
「えっ?」
何を言っているの?そう言おうとした言葉は、とても短いリップ音に遮られた。
ほんの一瞬だった。ふわりと唇に柔らかな温もりと微かな痺れの余韻がなければ気のせいだと思ったかもしれない。
「な、バベル君、何して……」
「んー、やっぱりすごくあまいあじがするね。とってもおいしい」
まるで美味しい食べ物を吟味するように、ペロリと舌舐めずりする仕草に思わずドキリとしてしまう。そのまま彼に目を奪われていると、再び視線が重なった。
「ねぇ、もっときみをちょうだい?あまーい、きみを、たくさん、たくさん、たべさせて?」
蛇に睨まれた蛙とでも言えばいいのだろうか。動けない私に向けられている目は優しい筈なのに、捕食者にしか見えなかった。
「やくづくりのてつだいをしてほしい」
バベルにそう頼まれて、内容も何も分からないままにレッスン室へとやって来たのだが、一体これはどういうことなのだろうか。
部屋に入るなり手を引かれ、そのまま視界は反転して。体は支えられていたみたいで、背中を強く打ち付けるようなことはなかったけれど、精神的な衝撃は大きかった。
彼にしては酷く強引だと驚いたが、自分を見下ろすその面立ちで考えを改めた。
いつもの柔らかい笑顔の彼はそこにはいなくて、所謂ライブモードの彼が含みのある笑みを浮かべていたからだ。しかも綺麗な淡蒼色の瞳の奥にギラついた光を感じて、背筋がゾクリと粟立った。
「えっと、これは一体……」
ふと、当初の目的を思い出す。これは役作りに必要なことなのだろうか。
何となく嫌な予感がして、恐る恐る彼を見詰めていると、とんでもない物が視界に飛び込んできた。
鞭だ。
しかもオモチャのような簡素な作りの物ではない。艶やかな黒革の本格的なもの。どう考えても自分に使う為のもの。そう理解した途端に血の気が引いた。
「ふっ、一体何を想像した?」
一方でバベルは目尻を歪めて笑っていた。演技なのか、本心なのか。全く見抜けない。
それが無性に怖くてガタガタと体が震えだす。そんな私に気付いたのか、そっと耳元で囁かれた。
「安心しろ、痛い事はしない」
とても甘い声色だ。いつもなら蕩けてしまっているだろう。でも、この日はそれよりも恐怖が勝ってしまっていた。
怖い、怖い、怖い。
涙が自然と滲み始め、彼の姿をぼやかしていく。思考が恐怖に満たされていく。バベルは何か言っているみたいだったが、全く頭に入っては来なかった。頭の中が一気にこんがらがっていく。
しかし、バシンッと空を切り裂くような音に嫌でも我に返らされた。
「よそ見をするな。俺を見ていろ」
顔のすぐ真横の床が鞭打たれた。まるで悲鳴みたいなその音に、体が竦み上がる。同時に、今の彼の機嫌を損ねてはいけないと本能的に理解した。
喉の奥から溢れ方な嗚咽を堪え、懸命に彼を見詰める。そのまま緊迫した時間が刻々と流れ、ふと彼の手が伸びてきた。
次は何をされるのか。叩かれるのだろうか。痛い事はしないとは言っていたが、心は穏やかではなかった。
彼の指先が目元に触れる。涙が掬いあげられ、彼の顔がハッキリと見えた。鋭く細められた双眼が私を突き刺す。
「そう怯えるな。そんな顔をされると虐めたくなるだろう?」
クツクツと喉を鳴らして笑う彼はただただ楽しそうだ。たまに鞭をちらつかせながら、彼の指が目から頬、顎にゆっくりと滑り落ちていく。
「どうした、抵抗しないのか?少しくらい噛みついてもいいんだが?」
そんなこと出来るわけがない。そう視線で訴えかけると、彼の目がスッと細められた。
「調教する楽しみがないのは残念だが、従順なのは嫌いじゃない。いい子には褒美をやらなければなぁ」
唇のラインを親指でなぞられる。それだけでも触れられた箇所がビリビリと痺れた。
彼の顔が近付く。目を閉じてしまいたいが、怒らせるのが怖くて出来ない。
恐怖のせいか、羞恥のせいか。心臓が破裂してしまいそうなくらいに暴れている。痛くて苦しい。また涙が溢れてきそうだ。
そんな私にお構いなしに、互いの吐息が混ざり合うくらいに口先が接近して………。
「どう、バベルえんぎ、こわかった?」
「えっ……」
さっきまでとうってかわった辿々しい口調に、私は耳を疑った。
直後、ふわりと体が浮き上がる。背中に感じていた冷たさが啼くなって、代わりに人の温もりが広がっていく。
あまりにも急展開過ぎて、もう何が何だか分からないが、さっきまで全身にまとわりついていた緊張感はなくなっていた。
ぽかんとして固まっていると、もう一度涙を拭われた。次に見た彼は、いつもの優しい彼だ。私の唇を弄んでいた手はいつの間にか頭に移動していて、子供をあやすように何度も撫でられた。
ギャップといえばいいのか。急激な切り替えに思考が追い付かない。
何と声をかけたらいいのか。安心するべきなのか、怒るべきなのか、笑うべきなのか。自分の気持ちすら分からない。
そんな私に、バベルはふわりと微笑みを讃えながら追い討ちをかけてきた。
「ねぇ、バベル、きみをちゃんとしはいできてた?」