Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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どこからともなく歌が聞こえてきた。とても楽しげな、子供が即興で口ずさむような不規則な旋律の歌だ。そんな軽快な歌を耳にした黒羽は、その身を硬直させた。
歌声は少しずつ大きくなっていく。それに比例して、彼の鼓動はドクリ、ドクリ、と不穏に暴れだす。
黒羽は息を潜める。乱れそうになる呼吸を必死で堪え、気配を消し、歌声が通りすぎる事を強く願った。
しかし、彼のいる部屋の扉はガラッと開け放たれ、望みは一瞬で消え去ってしまった。
「くろ、みーつけたぁ」
非情にも扉を開いた人物ことバベルは、万円の笑みを浮かべていた。
いつものふわりとした柔らかな笑顔だ。まるで日溜まりのような彼の表情とうってかわって、黒羽の顔は引きつっていた。
黒羽は知っている。彼の歌の示す意味を。そして、これから自分に訪れるであろう結末を。嫌という程に知っていた。
「どうしたの?ぐあいがわるいの?」
「いや、そういうわけではない。それより、俺を探していたのか?」
「うん、バベル、くろをさがしてた」
ニッコリ。そんな言葉がぴったりな顔で、バベルは黒羽を見下ろす。
「バベルね、くろといっしょにぽかぽかしたくなった。だから、ぎゅーってさせて」
そう答えたのと、彼の腕が黒羽を包んだのは同時だった。逃げる隙もなく、その腕の中に捕らえられてしまう。
密着した互いの心臓が、違うペースで律動しているのをありありと感じた。
「ふふっ、くろ、あったかい。しんぞうも、すごくどきどきしてる」
服超しに伝わる熱に、バベルは幸福そうに頬を緩めている。ぎゅっと手に力が入り、もっともっとと甘える姿は、まるで大きな子供だ。きっと端からはそう見えているのだろう。
しかし、黒羽は違う。彼にははっきりと彼の変化が見てとれていた。
澄みきった水のような清らかな瞳に、艶やかな色が深まっていく。あどけなさに怪しげな影がかかっていく。
ライブの時に見せる凛々しい雰囲気とはまた違う、妖艶な気配が彼を包んでいく。
「もっと、どきどきして」
バベルの指が黒羽の横髪を絡めとる。そうすることで露になった彼の耳元でバベルは甘く囀ずった。
「みみがあかくなった。かわいい」
うっとりとした吐息混じりの声と軽いリップ音に、黒羽の背筋はゾワゾワと粟立っていく。
それに気をよくしたバベルは、何回か彼の耳に唇を押し当てた。じわりと膨れ上がっていく熱を堪能するように、何度も何度も啄んでいく。
耳から伝わる柔らかな感触は甘美な痺れとなって黒羽の全身を駆け巡る。それに呑まれないようにと堪えるのが精一杯で、抵抗なんて出来そうになかった。こうなると、バベルが満足するまで待つしかない。
「くろのからだ、すごくぽかぽかになった」
五分、十分……。どれくらいの時間が経過しただろうか。
燃えるように火照った黒羽を、バベルは思いきり抱きしめる。まるで子供がぬいぐるみを大切に抱えるように、しっかりと腕に力を込める。
黒羽はぼんやりとした思考の中で、未だに残る甘い余韻を感じていた。
(こいつにも困ったものだ……)
本人は甘えているつもりなのだろう。人の温もりを強く求めているだけなのだろう。
出来ればその思いに応えてやりたいと思う。思うのだが、毎度こうやって温もりを得るために愛撫される事へと強い抵抗は拭えずにいた。そして、これからもずっと慣れることはないだろう。
「くろ…」
「どうした?」
「こっちむいて」
ふわり、と唇に柔らかい熱が広がる。ただ触れ合うだけの軽い口付けなのに、たったそれ一つでどうにかなってしまいそうだ。
「くろ、だーいすき」
うっとりと細められたバベルの目には色情の気配が宿っている。それに本人はまだ気付いていない。
(頼むから気付かないでくれ)
バベルの目を見詰め返しながら、黒羽は願う。
純粋な愛情だけならいくらでも与えて構わない。だが、それ以上のもっとドロドロとした欲情を向けられる日が来たとしたら……。そう思うと恐ろしくて堪らなかった。
きっと、自分も彼も、止まれない。堕ちるところまで堕ちてしまうだろうから。
ふと、またあの歌が聞こえてきた。これまで何度も耳にした、バベルが黒羽を求める時に歌う歌。
これはサインだ。黒羽とバベルしか知らない、二人だけの、形のない、目には見えないサイン。それが示すのは純粋な愛慕か、それとも………。