Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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今日は満月。化け物達の血が騒ぐ夜だ。
そのせいだろうか、神父様はいつもより御機嫌斜めだった。
「まだ残っていたのか。今日が満月なのは知っているだろう。月が高く昇る前に家に帰れ」
まだお祈りの途中なのに、神父様は強引に私の腕を掴み上げる。あと少しなんだから、待ってくれればいいのに…。
「もぅ、そんなにピリピリしないでくださいよ」
「お前が満月の恐ろしさを分かっていないからだろう」
「分かってますよ。それにここは教会ですよ。一番安全な場所じゃないですか」
「………本当にそう思うか」
ふと、神父様が纏う気配が変わった。そう感じた。
とても冷たくて、寂しくて。まるで土砂降りの雨の中に独りぼっちで佇んでいるような虚無感が、押し寄せてきた。
「神父…様……?」
何だかいつもの神父様じゃなくなってしまった気がして、思わず後ずさってしまう。それでも神父様を呼んでみると、目があった。
「ごめんね、しんぷさまはおやすみのじかんがきちゃった。いまからは、きゅうけつきのじかんだよ」
「えっ……」
見慣れている筈なのに、別人のような冷たい目が私を射抜く。
神父様と同じ顔。同じ声。それなのに、全く違うナニカがそこにいた。
「貴方は…誰……」
「んー?バベルはバベルだよ?きみもよくしってるでしょ?」
「違う!貴方は神父様なんかじゃない!」
「ちがわないよ」
ナニカはゆっくりとこっちに近づいてきた。
早く逃げろと頭が警報を鳴らす。だけど、足が竦み上がって全く動かなかった。
「ひるまのバベルはしんぷさまだけど、よるのバベルはきゅうけつきなの。どっちもおなじバベルだよ?」
簡単に触れられる場所まで近付いてきたナニカ…いや吸血鬼は、神父様と同じ顔で、神父様が絶対に見せないような柔らかな表情で微笑んでした。
とても優しい表情なのに、怖くて、怖くて、堪らない。
「バベルね、きみとずっと、ずーっと、おはなししたかった。こうやってふれて、きみをたんのうしたかった。それがかなってすごくうれしい」
いつの間にか鋭い爪の伸びた手が、首筋に触れた。冷たい手だ。まるで死んでいるみたい。
その指先が触れた場所に、チクりと痛みが走っていく。
「ねぇ、きみにおねがいがあるの」
嫌な予感がした。だって、吸血鬼が人間に求めるものなんて一つしかない。
「きみのちを、バベルにちょうだい?」
返事なんて待つこともなく、吸血鬼の顔が近付いて、私の首に喰らいつく。
悲鳴も上がらなかった。痛みすら一瞬だった。まるで夢の中に引きずり込まれるような心地が私を包んでいく。
あぁ、神父様の忠告を聞いておけばよかった。
最後にぼんやりと意識に映ったのは、教会の窓から覗くとても綺麗な満月だった。
◆◆◆◆◆
棺の中で眠る彼女を見下ろす。
大量に敷き詰めた薔薇の赤によって、白さを引き立てられた血の気の引いた体は、今も俺を魅了して止まない。死んでもなお、彼女は変わらず美しいままだ。
「すまない」
俺が殺した。己の欲に呑まれ、俺が彼女の命を食らいつくしてしまった。
綺麗な体に不釣り合いな、痛々しい吸血痕がそれを物語っている。
ずっと前から彼女が好きだった。大嫌いな太陽みたいに笑う彼女が好きだった。
だから奪った。奪ってしまった。ずっとこの欲を抑えていたのに、満月の誘惑に負けて、俺は罪を犯してしまった。
そして、更に罪を重ねようとしていた。
「お前は俺を恨むだろうな」
彼女は太陽。俺は月。
彼女は人間。俺は吸血鬼。
まだその関係は崩れていない。
……………でも、それももうおしまい。
「おねがい、バベルとずっといっしょにいて?」
じぶんのしたをガリッとかむ。するどいけんしは、かんたんにしたをさいて、ちがあふれだす。
ねむるかのじょのまえにしざまづいて、つめたくてなったくちびるをおおう。それから、くちいっぱいにあふれるちを、かのじょにおくった。
きみのこえがもういちどきたい。きみのえがおをもういちどみたい。きみのめに、バベルをうつしてほしい。そんなじぶんかってなわがままがわきあがってとまらない。
それらをはきだすように、かのじょにじぶんのちをそそぎつづけた。
つぎにきみがめざめるときは、きみもバベルもきゅうけつき。にんげんのきみも、しんぷさまのバベルも、もうどこにもいない。