Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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ファンから贈られるか、仕事で触るか。花との関わりなどそれくらいだろう。そもそも仕事が忙しくて家でのんびり植物の世話などしていられないし、そんな自分の姿など想像も出来ないでいた。
だから、ズイッと差し出された赤黒い花を目の前にして、どう反応するべきか頭を悩ませたのだった。
「おい、それをどうするつもりだ?」
「何って一誠さんにプレゼントしに来たんだよ!」
今回この花束を持ってきたのはファンでもスタッフでもない。後輩であり、同じ事務所に所属する及川桃助だ。
彼はえへへ、と太陽みたいな笑顔を浮かべている。その眩しさと花の鮮やかさに、轟一誠は目眩を感じた。
彼が何を思ってこんなことをしているのか、さっぱり理解出来ない。
「俺に花なんて持って来んな。似合わねぇだろーが」
「そんなことないもん!」
「あ"?」
思わず凄んでしまったが、及川桃助は全く動じた様子はなかった。何かあるとすぐに『ふぇぇー』と涙目になるはずなのだが、今の彼に気の弱さは全く感じられない。
それどころか、更に花束を轟一誠に押し付ける。その強引さに、彼の方が動揺したくらいだ。
「一誠さんって赤色似合うでしょ?このお花さんも赤色だし、薔薇だから雰囲気も大人っぽくて素敵だよ」
これでもかと近付く花から、落ち着いた香りが漂ってくる。あまり甘みの少ない香りをした品種のようだ。
「これね、桃が育てたお花さんなんだよ。たくさん咲いたから、一誠さんにあげたくなったの?ねぇ、もらってくれない?」
「ちっ、仕方がねぇな」
「やったー、ありがとう!」
きっとどれだけ凄んで見せても、彼は諦めないだろう。それならば、こっちから折れた方方がいい。
轟一誠はそう自分に言い聞かせ、半ば奪い取るようにして花束を受け取った。
乱暴な素振りをされても、及川桃助の笑顔が崩れることはなかった。それどころか、喜びに目をキラキラと輝かせていた。余程嬉しかったのだろう。
「えへへ、嬉しいなぁ。大切にしてね」
「おぅ、もらっちまったからには枯れるまで世話してやる」
「ありがとう!じゃあ、桃はお仕事があるから、もう行くね!」
花の残り香を髪に纏って、及川桃助は弾む足取りで彼の元を去って行った。その姿はみるみる小さくなっていく。
まるで爽やかな風のようだ。
轟一誠は彼の姿が見えなくなってからも、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「あれ一誠じゃん。花束なんて持ってどうしたの?もしかして、コレ?」
さて、この花束をどうしたものか。そんな事を考えていると、聞き慣れた声が背後から迫ってきた。赤羽根双海だ。彼の少し後ろでは、三千院鷹通が不思議そうに花束を見つめていた。
やって来て早々に笑えない冗談をかましてきた赤羽根双海に、轟一誠は眉を潜める。
「ふざけたこと抜かしてるんじゃねぇよ。それより、今日は取材じゃなかったのか?」
「さっき終わったところ」
「そうかよ」
「ねぇ、話反らさないでよ。それ、どうしたの?」
「しつけぇな。及川から押し付けられたんだよ。自分で育てたんだとよ」
やたらと絡んでくる赤羽根双海に苛立ちながらも答える。しかし、当の本人はヘラリとして全く怖がる様子も反省する様子もなかった。
だが、三千院鷹通は違った。
「それは本当に及川桃助からもらったものなのか?」
「あ"ぁ?さっきそう言ったろ」
「……すまない」
「どうした、何かあんのかよ?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
何か思うところがありそうだったが、彼は口を閉ざしてしまった。気にするなと言われても、気になって仕方がないのだが、無理やり口を割らせるのもどうかと思い、轟一誠はモヤモヤした気持ちと苛立ちを溜め息と一緒に吐き出した。
「おしゃべりは終わりだ。さっさと帰るぞ」
「はいはーい」
轟一誠に赤羽根双海が続く。
「黒い薔薇。まさかなぁ……」
微かに脳裏に過る疑念を振り捨てて、三千院鷹通も後を追った。
黒い薔薇の花言葉は『貴方はあくまで私のもの』