十二月二十五日も終わりに差し掛かったころ、エヴァは足音を忍ばせながらバベルの部屋へと向かっていた。その手には小さな紙袋が一つ、ゆらゆらと揺れていた。
「バベル、入るぞ」
いつもよりも小さくノックすると、すぐに扉は開かれた。
「おにいちゃん、こんなじかんにどうしたの?」
「すまないが、部屋に入れてはくれぬか?」
「うん、いいよ。おにいちゃんなら、いつでもだいかんげい」
ニッコリと笑うバベルに招き入れられ、エヴァはホッと息を吐く。
バベルは彼の訪問が嬉しかったようで、機嫌よく鼻唄を歌いながら姿見の椅子をテーブルに移動させていた。
「はい、おにいちゃんはこっちにすわってね」
「ありがとう」
「ところで、こんなじかんにどうしたの?バベルにごよう?」
「あぁ、そうだ。お前に渡したいものがあってな」
用意された椅子に腰掛けて、エヴァは持っていた袋をバベルに手渡した。
「開けてみてくれ」
「うん」
言われたままにバベルは袋の中身を取り出し、包装を解いていく。そして中身を見た途端に、キラキラと目を輝かせた。
「すごい!きらきらで、かわいい」
中に入っていたのは銀色に輝くアラザンやカラフルなチョコレートでデコーレションされた小さなケーキだ。
「仕事の帰りに見つけてな。本当は澪と蛮にも買ってやりたかったのだが残りが一つしかなくて………」
「それで、バベルにもってきてくれたの?」
「あぁ」
「ふふっ、そうなんだ。うれしい」
澪と蛮には申し訳なく思いながらも、バベルの喜ぶ姿にエヴァは胸を温かくさせた。
彼にはもっとたくさん喜びを感じてほしい、そう願っているから…。
「でも、ちょうどよかった。バベルも、おにいちゃんにあげたいものがあったの」
「何だ?」
「じゃーん!」
効果音と共に彼が手渡してきた包みに、エヴァは瞬きする。今さっき自分が手渡したのと同じものがそこにはあった。
まさかと思いバベルを見上げると、彼はニコニコしたまま言った。
「おにいちゃんとおそろいになっちゃった」
その言葉が意味することは一つ。エヴァが包みを開けると、やはり自分が選んだものと同じケーキが入っていた。
なんという偶然だろうか。
驚きと、嬉しさが混ざりあったような気持ちが込み上げてくる。エヴァは目頭が熱くなってきたのをグッとこらえた。
「ねぇ、おにいちゃん」
「どうした?」
「ふたりで、ないしょのくりすますだね」
嬉しさを纏いながら悪戯に笑うバベルに、エヴァも頬を綻ばせる。
「あぁ、我とバベル、二人だけの内緒のクリスマスだ」
互いに見つめあって。声を潜めて。二人は幸せそうに笑いを溢した。