赤羽根君がロケ地で事故に遭った。
バベルからその話を聞かされて、せっかくだから笑いに行ってやろうと思ったのに、俺を迎え入れた赤羽根君は腹立たしいくらいにピンピンしていた。いや、痛々しいくらいに包帯で腕をグルグル巻きにはしていたけど、ヘラリとした気の緩んだ顔はいつもと相変わらずだった。
家で寝込んでるのかと思って期待してたのに、拍子抜けだ。
「何かムカつく」
「えぇー、人の家に押し掛けてきた第一声がそれって酷くない?」
どんな怪我をしたのか具体的には聞いていなかったけど、もっと深刻だと思っていた。バベルが「ふたみくんが、しんじゃうかも」ってガチ泣きしそうな顔で言われたら、そう思っても仕方がないとは思うけども…。
「思ってたより全然元気じゃん。面白くない」
「いやいや、人の怪我を何だと思ってるのさ。すごく痛かったんだよ」
「あっそ」
本当に面白くない。
笑ってやろうと思っていたのに。弱っている赤羽根君を見下してやりたかったのに。よりによって元気な姿を見て安心してしまうなんて、最悪。
「そんなに怖い顔しないでよ。わざわざ来てくれたってことはお見舞いの品とか持ってきてくれたんじゃないの?リンゴある?」
俺の気持ちなんて知りもしないで、赤羽根君は持ってきた袋の中身をずけずけと覗き込んできた。生憎とお望みのリンゴは持ってきてなかったなら少し落胆してたみたいだけど、手ぶらで来なかっただけ感謝してほしい。
「まぁ、いいや。せっかくだからさ、ちょっと看病してあげるよ」
「本当?看病とか言って意地悪するつもりじゃない?」
「どうだろうねぇ」
ずっと玄関で立ち話をしていても、お互いに疲れるだけだ。俺は赤羽根君を押し込むようにして、無理やり家に上がり込む。そのままリビングまで押し入って、ベッドに赤羽根君を押し倒した。
「えっ、ちょっと、朔空ちゃん⁉」
やっと赤羽根君のだらしない顔が引き締まる。慌てる顔なんて滅多に見れないから、何だか新鮮だ。
俺が何をしようとしているのか察したみたいだ。服をめくろうとしたら抵抗されたけど、腕が使い物にならない赤羽根君を押さえ付けるなんて簡単だった。
「その手じゃシたくで出来ないでしょ?ほら、大人しく看病されなよ」
「そんな看病いらないよ~」
「贅沢言うな」
いつも赤羽根君が俺にしてることなんだし、たまにはこっちがやったって文句は言わせないよ?