Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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小さな筆が爪を滑っていく。その軌跡を示すように紫のラインが伸びていく。
ゆっくりと、丁寧に。バベルはエヴァの爪の一つ一つにマニキュアを塗っていく。
アイドルを目指し、ステージに立つ両者はそれなりに化粧を施すことがあるが、自らで行うことはほとんどない。それにも関わらず、ムラを一つ作らずに爪を彩っていく様子に、エヴァは目を見張った。
「バベル、お前は化粧も上手いのだな」
元々彼が器用であることは知っているが、弟の新たな一面を知れた事に、エヴァは心から幸福を感じていた。一方で、兄に褒められた嬉しさに、バベルもふわりと目を細めた。
「おにいちゃんをきれいにしたくて、こころくんにおしえてもらったの」
「そうか、それではセイレーンには礼を言っておかねばならないな」
「うん。バベルも、ありがとういいにいく」
左手全ての爪が彩られ、きちんと乾くようにとLEDライトが当てられる。その手際のよさから、彼が何度も練習したであろうことがエヴァは容易に想像できた。
「我の為に、ありがとう」
「バベルがやりたいっておもったの。だから、おにいちゃんこそ、バベルのおねがいをきいてくれてありがとう」
バベルは微笑みを携えたまま、エヴァの右手を取り、またせっせとマニキュアを塗り始めた。
「ところで、何故我にこのような事を?」
「んー、えっとね、バベル、むらさきいろがだいすきなの。それでね、おにいちゃんにもバベルのだいすきないろをみにつけてほしいなっておもった。そしたら、ちょうどきれいなむらさきをみつけたから、しょうどうがいしちゃってた」
「ほう、そうか」
弟の好きな色。些細な事だが、また新しく彼の事を知ることが出来、エヴァは目尻を下げた。
二人が再会してからまだ時間はそこまで経っていない。齢429年の歳月はあまりにも多くのものを取り零してしまったのだろう。
それを取り戻すことは出来ない。だが、新たに作ることは幾らでも可能だ。
過去を嘆くくらいなら、これからの未来を幸せにするように尽力する方がずっといい。
「よし、おわった。こんかいはすごくじしんがあるよ!」
「うむ、見事なものだ。プロ顔負けだな」
エヴァが考え事をしている間に、右手の爪も全て紫色に染まっていた。深みがあり、とても落ち着いた紫だ。彼がAlchemistのメンバーとして纏う色でもある。
満足げに自分の塗った爪を見下ろす弟の頭を、エヴァは優しく撫でる。色は違えど、サラサラとしたその手触りは自分のそれととても似ていた。
「そうだ、バベルよ、少し待っていてくれ」
自分からも何かしてやれることはないか。そう考えて、ある事を思い付いたエヴァは、側にある机からあるものを取り出した。
「それ、なに?」
「これはルージュだ。我がよく使うものだな」
興味津々でルージュを見つめるバベルに、エヴァはクスリと笑う。
「お前は紫が好きだと言っただろう。我が好きな色は漆黒。ちょうどこれと同じ色だ」
ゆっくりと蓋を外す。中から姿を見せたそれは、暗闇のような黒色をしていた。
バベルの目がキラキラと輝く。
「わぁ、おにいちゃんのいろだ」
「はっはっはっ!そうだろう。我に相応しい闇の色だ。今回は、お前にも少し分けてやろう」
「え、いいの?」
「もちろんだ。さぁ、少し屈んでくれ」
「うん」
手の届くところまで体を傾けるバベルに、エヴァはそっと手を添える。そして、いつも自分にするように、軽くルージュを滑らせた。
重く黒々とした見た目とは相反し、優しい黒が彼の唇に広がる。
「さぁ、出来たぞ」
「ありがとう。ふふっ、うれしいなぁ」
部屋にある姿見に自分の姿が映っている事に気付いたバベルは、闇を落とされた己の唇で弧を描いた。
「ねぇ、おにいちゃん」
「何だ?」
「おにいちゃんにはバベルのいろ。バベルにはおにいちゃんのいろ。これで、おしごとではなればなれになってもさみしくないね」
「あぁ、そうだな」