Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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一体どこから沸いてきたのか。部屋をところ構わず埋め尽くす謎の物体に、黒羽は顔を引きつらせた。
恐らく生き物なのだろう。粘性の液体を垂らし、ゆっくりと蠢くそれは、映画やゲームなどでたまにクリーチャーとして描かれる触手を彷彿とさせる。
現実世界においてそんなものは存在しない。してはいけない筈だ。それなのに、得たいのしれないそれらは、確実に黒羽に迫りつつあった。
逃げようにも、壁一面にそれらは蔓延っている。床も埋もれていて、彼が寝ていたベッドとテーブルの上だけが未だに侵食されていない領域だ。運悪くスマートフォンの入った鞄は床に置いてあったため、拾うことは出来なかった。
「く、くるな……」
身を守る為に使えそうなものもなく、黒羽はただ自分に迫りくるそれらの群れを見ている事しか出来ないでいた。
それらは互いを押し退け合うようにして、ヌチャリヌチャリと気持ちの悪い音を立てながら確実に黒羽に狙いを定めている。動きが遅いのが災いしてその動きをハッキリと肉眼でとらえてしまい、おぞましさを増幅させていた。
「ヒァッ⁉」
目の前のそれらに気を取られていたせいで、背後にヌルリと広がった柔らかな感触に、黒羽は思わず悲鳴をあげた。視界の端に、太い触手の姿が写り込む。それは彼の肩から背中にかけて這いずろうとしていて、ゾワリと背筋が凍りついた。
「この、離れろ」
このままではどうなってしまうか分からない。黒羽は反射的に背中のそれを掴むと強くて引いた。しかし、触手は簡単に剥がれたがそのまま腕に絡まり、逆に動きを止められてしまった。
しまった、と後悔したのも束の間。今度は足からも別の触手が何本か這い上がってきて、蹴り払うよりも先に下肢の動きを封じられてしまった。
これで逃げることも、抵抗することも出来なくなった。その絶望感に、黒羽は純粋な恐怖を感じた。
自分は一体どうなるのか。殺されるのか、それとも……。
ふと、朔空が見ていたホラー映画の内容が脳裏を過った。かなり古い映画だったが、宿主の人間に寄生するもの、食うもの、繁殖に利用するものなど様々なものが出てきたはずだ。
自分の末路もそのどれかなのかもしれない。それならば、せめて一思いに殺してほしい。そんな事を考えながら、黒羽は全身を這いずる触手の嫌悪感に耐える事しか出来ないでいた。
「うっ、ぐ……」
一際大城な触手が覗き込むように迫ってくる。それを睨み返した直後、喉に凄まじい圧迫感を感じた。別の触手が喉に絡み付き、締め付けたのだ。
反射的に酸素を求めて口を開く。しかし、更に追い討ちをかけるように、目の前のそれは黒羽の口をこじ開けて、喉の奥へと侵入した。
外からも、内からも気管を圧迫され、完全に呼吸が止まる。その苦しさと、口内の気持ちの悪さに涙が溢れた。
これまで味わった事のない苦痛に気が狂いそうになりなる。しかし、幸いにも意識はすぐに薄れ始め、長い蹂躙もなく死ねるであろう
未来に黒羽は安堵したのだった。
眩しい。瞼を焼くような強い光に、黒羽は低く唸る。
体が酷く怠い。それに気分も悪い。
ボーッとする頭を抱えて身を起こすと、そこは普段と変わりのない自室だった。いや、いつもと違う事が一つだけある。
床には布団が二枚敷かれていて、朔空とバベルが心地よさげに寝息を立てていた。
そうだ、昨夜は二人が泊まりにきていたのだ。そして、朔空がたまにはホラー映画でも見ようと言ってDVDを持参して、それから……。
「あれは……夢か…………」
ふと、さっきまで見ていた悪夢がうっすらと蘇り、再び腹の底からゾワリと寒気が込み上げてきた。あんな最悪な夢など久々に見ただろう。
「よくあんなものがまともに見れるな。そもそも人の家に泊まりに来て観るような映画じゃないだろう」
この悪夢のきっかけになったであろう机の上のDVDと朔空を交互に見ながら、黒羽は深々とため息を吐く。
朔空が起きたら文句の一つでも言ってやろう。そう心に近い、黒羽は再び横になり目を閉じた。