真っ赤に熟れた苺とふわふわのクリーム。それをスプーンいっぱいに掬い上げて口に放り込めば、幸せの味が広がっていく。
「美味しいー」
あまりの美味しさに蕩けて落ちてしまいそうな頬っぺたを押さえながら、心は至福の声を溢した。フルーツとクリームのたっぷり乗ったパフェ。頑張った自分へのご褒美だ。
ニッコリと微笑みを浮かべたまま、心は次の一杯を掬おうとスプーンを伸ばす。だが、少し前からずっと感じていた視線に気を削がれて、一旦その手を止めたのだった。
「ちょっと、何よ。ジロジロ見ないでくれる?」
ちょうど向かい側に座っていた一誠に、心はムスッと頬を膨らませる。一方で、一誠もまた怪訝そうな顔をしていた。
「お前、よくそんな甘ったるいものが食えるな」
「あんたこそ、よくそんな辛そうなものが食べれるわね」
一誠の手前に置かれているラーメンは尋常ではないくらいに赤い色をしている。彼が極度の辛党であることを知っていても、その見た目に心はげんなりしそうだった。
「あんたには一生パフェの美味しさは分からないでしょうね」
「別に分からなくても構わねぇよ」
「ふんっ、可愛くないわね」
別に一誠に可愛さを求めるつもりはない。寧ろ彼が可愛さに目覚めたら、それはそれで違和感しかないだろう。でもせめて、乙女心くらいは理解してもいいのではないか。そんなモヤモヤが燻って仕方がなかった。
「一誠、ちょっとこっち向きなさい」
「何だよ………むぐっ」
心はパフェをこれでもかというくらいに掬い上げると、顔を上げた一誠の口に目掛けて突っ込んだ。
「おい、何しやがる」
「何よ、心ちゃんがせっかく一口分けてあげたんだから喜びなさいよね」
「喜べるか、くそっ」
一誠は頬についたクリームを拭い、食べかけのラーメンを掻き込む。その隣に座っていた双海が『よかったじゃん、間接キスだよ』と話しかけ、返事の代わりに思いきりどつかれていた。
(もう、騒がしいわねぇ。嫌いじゃないんだけど……)
そんな彼らをやれやれと眺めながら、心はもう一度スプーンにパフェをたっぷりと乗せて、大きく頬張ったのだった。