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SS置き場

Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。

ランスロで仲直りする話

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ランスロで仲直りする話

一誠と鷹通に悪気がないのは分かっている。二人が最善を尽くそうとしたのも分かっている。それでも目の前に突きつけられた惨劇を、双海はどうしても受け入れられずにいた。
申し訳なさそうな顔をする一誠と鷹通。そして頭がずぶ濡れになり、一部の色が薄れて白くなってしまっているナマちゃんのぬいぐるみ。
それらを交互に見ながら、双海はやるせなさを抱いていた。
「ねぇ、これどうしてくれるの?ものすごく大切にしてたのに……」
「悪ぃ……」
「俺もすまない。わざとではないんだが…」
「それは分かってるよ。でも……酷いよ」
本当は二人を責めてはいけない。頭では理解しているのに、双海の口から溢れるのは否定の言葉ばかりだった。
この悲劇は今から三十分ほど前。双海が一服しようと席を立っている間に、一誠がうっかりと飲みかけのコーヒーをナマちゃんのぬいぐるみに溢してしまった事から始まった。一誠はすぐに染み抜きをしようと試みたのだが上手くいかず、側にいた鷹通と二人で洗ってみようとしたのだ。そこまではよかった。洗剤に手を出すまでは……。最終的に染みは取れたものの一緒に元々の色が抜けてしまったのだった。
この事を双海が聞かされた直後は、仕方がないと思う気持ちもあった。だが頭を強く打たれたような衝撃にを覚え、目の前が真っ暗になる心地が邪魔をして、今の状況を受け入れる事は出来そうになかったのだ。
ドロドロとした気持ちがきっと顔にも出ているのだろう。顔色をうかがってくる二人がそれを物語っていた。
「双海、新しい物を用意するから機嫌を直せ」
「無理だよ。これは一つしかないんだから……」
「どういう意味だ?」
「これ、一誠が始めて俺に取ってくれた思い出のナマちゃんなんだよ」
「…………」
双海は今にも泣きそうなのをグッと堪えて、声を絞り出す。この言葉を最後に沈黙が広がり、あまりよくない空気が三人の間に漂った。
「ちっ、仕方がねぇな。それ借りてくぞ」
そんな気不味い沈黙を破ったのは一誠だった。
一誠はナマちゃんのぬいぐるみを掴むと、空いた方の手で鷹通の襟首を強く引っ張った。
「うおっ、何するんだ」
「てめぇもついてこい。双海は少しここで待ってろ」
「なっ、どこに行くつもりだよ」
「うるせぇ、黙ってろ」
急のことに双海は固まったまま動けなかった。そのまま呼び止める事も、どこに行くのかも聞けないまま、鷹通を引きずるようにして部屋を出ていく一誠を見ていることしか出来なかった。
ピシャリと扉は閉められて、再び静けさが戻ってくる。
「何なんだよ、もう………」
一人残された双海はしばらく扉を眺めていたが、胸につっかえるモヤモヤと取り残されたもの寂しさがゆっくりと込み上げてきて、それを紛らそうとその場に突っ伏したのだった。

◆◆◆◆◆
「おい、起きろ」
ぶっきらぼうな声が降ってきて、双海はボーッとする頭を持ち上げた。どうやら眠ってしまっていたようだ。しかもかなり寝ていたみたいで、いつの間にか外は暗くなっていた。
双海はぼやける目を擦りながら声のする方を見上げて…
「えっ……」
目を見開いた。
ずいっと目の前に差し出されたナマちゃんのぬいぐるみ。初めは何も着ていなかったはずのそれに、自分のライブ衣装が着せられていたのだ。
夢の続きだろうかと双海は何度も瞬きする。しかし、目の前のそれが変化することはなくて、現実なのだと受け入れた。
「えっ、これどうしたの?」
「お前が仲良くしてる……何だ、ぬいぐるみ同好会みたいなやつがあるだろ」
「一誠、プリッシュカルテッドだ」
「それだ、そのプリッシュカルテッドのやつらに何とか出来ねぇか相談させてもらったら、こうなった。流石にぬいぐるみに着色は出来ねぇからな、服を着せて誤魔化させてもらった」
「服の生地は俺達がいつも着ているものと同じだ。折角だから本格的に拘らせてもらったぞ」
一誠からぶっきらぼうに差し出されたナマちゃんのぬいぐるみを、双海は震える手で受け取る。色の抜けたところはしっかりと帽子で隠れていて、全く見えなくなっていた。
ようやく落ち着いたと思っていたのに、また目元が潤みはじめて、双海は俯く。
「二人ともごめん。俺、大人げなかった」
「何でてめぇが謝るんだよ。元は俺達の不手際のせいなんだから、謝るんじゃねぇよ」
「そうだ。それに、お前が言うべき言葉はそれじゃないだろ」
ぽんぽんと、頭と肩に二人の手が降ってくる。その優しさと温かさに、双海の目はどんどん熱くなっていく。
駄目だ。涙が止まらない。
双海はナマちゃんのぬいぐるみを強く抱きしめる。そして、嗚咽で震えそうな唇を懸命に動かして、今一番伝えたい言葉を吐き出したのだった。
「一誠、鷹通……ありがとう」
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