Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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柄にもなく可愛らしいリップクリームをかってしまった。正しくは、心ちゃんにお揃いで買おうと押しきられたのだけれど…。
自分では絶対に選ばないような淡いピンク色のそれは、ほんのりと苺の香りがついている。試しに塗ってみたのだが、甘味の強いその香りは、やっぱり自分には似つかわしくないように思えてならない。
そもそも、15歳の青春真っ盛りな子ならまだしも、三十路が迫った大人が使うというのはどうなのだろうか。そんな抵抗感が拭えなかった。
「どうしたの?こわいかおしてる」
「へっ?」
考え事に没頭していたせいで、誰かが部屋に入ってくる気配に全く気がつかなかった。慌てて声のする方を見上げると、バベル君が不思議そうにこちらを見下ろしていた。
「すごくみけんにしわがよってるよ。くろみたい。なにかあったの?」
「あ、いや、特に何か困ってるとかではないんだけど……」
どうやら本気で心配している様子のバベル君に申し訳なさが込み上げてきた。同時に、そんなに険しい顔をしていたのか、と恥ずかしくもなった。
「ところで、バベル君はどうしてここにいるの?今日は授業はないの?」
「うん、きょうはうたのれんしゅうとらいぶのうちあわせだけ。さっきおわったところ」
「そうだったんだね。お疲れ様」
「うん。バベル、きょうもたくさんがんばった」
八の字に下がっていた眉が、緩やかな弧を描き、いつもの笑顔に戻る。何だか『誉めて』と言っているようか気がして、手を伸ばすと、彼は届くところまで身を屈めてくれた。
そのままよしよしと頭を撫で下ろす。
「ふふっ、きみになでられるの、すごくすき。うれしくて、こころがすごーくあったかくなる」
バベル君の笑顔がより明るくなっていく。
「それに、きょうはなんだかいいにおいがするね」
きっとさっき塗ったリップクリームの香りだろう。それを伝えようとしたが、それよりも先に彼は香りの元を嗅ぎ付けたらしい。
バベル君との距離が一気に近づいた。
あどけなさの残る顔をしているが、その整いすぎた面立ちは刺激が強すぎて、つい俯きがちになってしまう。
「バベル君、近い!近い!」
「ちかくない、ちかくない」
グイッと顔を持ち上げられ、唇に彼の鼻が触れそうになる。痛くないように力を加減しているみたいだったけど、逃がしてはくれそうになかった。
「ふふ、みつけた。ここ、すごくあまいかおりがする」
バベル君の綺麗な青い目に私が映り込む。
「ねぇ、いまきみにちゅってしたら、どんなあじがするかな?」
「えっ?」
何を言っているの?そう言おうとした言葉は、とても短いリップ音に遮られた。
ほんの一瞬だった。ふわりと唇に柔らかな温もりと微かな痺れの余韻がなければ気のせいだと思ったかもしれない。
「な、バベル君、何して……」
「んー、やっぱりすごくあまいあじがするね。とってもおいしい」
まるで美味しい食べ物を吟味するように、ペロリと舌舐めずりする仕草に思わずドキリとしてしまう。そのまま彼に目を奪われていると、再び視線が重なった。
「ねぇ、もっときみをちょうだい?あまーい、きみを、たくさん、たくさん、たべさせて?」
蛇に睨まれた蛙とでも言えばいいのだろうか。動けない私に向けられている目は優しい筈なのに、捕食者にしか見えなかった。