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SS置き場

Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。

バレンタインの話(アルケミSS)

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バレンタインの話(アルケミSS)

テーブルに置かれた鍋の中で甘い香りを漂わせているホワイトチョコレートを見て、黒羽は顔を引き攣らせた。
バレンタインだから三人でチョコフォンデュをしよう、なんて朔空が言い出した時点で嫌な予感はしていた。それでも、バベルもいるからそこまで破天荒なことはしないだろうと思っていたのだが、どうやらその考えは甘かったようだ。
テーブルに用意されているのはフォンデュ用のチョコレートだけ。それを付けて食べるための果物もお菓子も全くない。それだけでも奇妙なのに、床にご丁寧に敷いてあるビニルシートが異様さを醸し出し、これから起こるであろうことを物語っていた。
「ほら、見て。ちょっと奮発していいチョコレートを買っといたんだ。美味しそうでしょ?」
嬉々とした朔空の声色が恐ろしい。
背後にバベルがいるため、黒羽は逃げ出すことが出来ない。それに気付いているのか、朔空はご機嫌に彼の横を通り過ぎて、中身が見えるように鍋を持ち上げる。トロリと程よく蕩けたホワイトチョコレートが照明を反射してテラテラと光っていた。
朔空はそのチョコレートを指ですくうと、ペロリと舐める。そして、より一層頬を緩めた。
「うん、美味しい。バベルも味見してみる?」
「わぁい、あじみしたい!」
黒羽の肩から顔を覗かせたバベルに、朔空はもう一度チョコレートをすくった指を差し出した。黒羽の耳のそばで、ピチャリと舌のなる音が響く。反射で肩が震えた。
「あれ、黒どうしたの?顔が赤いよ?」
「ほんとうだ、みみもあかくなってる」
意地の悪い笑いに挟まれて、黒羽は俯く。いつもこうだ。二人のペースに引きずり込まれてしまう。
「黒ってば、何を想像したの?まぁ、間違ってはないと思うんだけどさ。ね、バベル」
「うん。くろはさっしがいいから、もうわかるよね」
バベルの両手に頬を挟まれて、グイッと上を向かされる。きっと、ものすごく恥ずかしい顔をしているのだろう。ニコニコと笑う二人の顔に、欲の色が混ざっていくのが分かった。
「待て、二人とも。早まるな」
「だーめ」
朔空の無慈悲な返事。それを合図にバベルの手は黒羽の腰に移動して、彼をがっしりと掴んだ。慌てて抵抗しようとしたが、ビクともしない。
その間に朔空はチョコレートの入った鍋を高々と黒羽の頭上に掲げて、ゆっくりと傾け始めたのだった。
「バベル、黒をしっかり押さえててね」
「わかった、バベルがんばる!」
「止めろ。バベルもそんなことは頑張るな。離せ!」
「黒もさっさと諦めて、俺らのためにフォンデュされてよ」
「絶対に嫌だ!」
もうわけが分からない。どうして自分がチョコレート塗れにならなければならないのか。
だが、どれだけ抵抗してもこの状況からは脱することは出来なくて、チョコレートが垂れ落ちてきた瞬間にギュッと目を閉じたのだった。


◆◆◆◆◆


「ろ、……くろ、くろ?」
体が熱い。そして、尋常じゃないくらいにだるい。頭が痛くて、吐き気もする。
一体どれだけ自分を弄んでくれたのだろう。うっすらと聞こえてくるバベルの声に苛立ちを感じつつ、黒羽はゆっくりと目を開けた。
「よかった、くろ、だいじょうぶ?」
「大丈夫なわけがないだろう」
自分でも驚くくらいに低くて掠れた声に、バベルはビクリと怖気付いたようだった。そんな様子にいい気味だと思ったのも束の間、黒羽はふと違和感を感じた。
さっきまで朔空の部屋にいたはずなのに、今自分がいるのは学園の保健室だ。そして、自分の体はどこも汚れていないし、そばにいるバベルも朔空も、冗談抜きでこちらを心配しているようだった。
「黒、いきなり怖い声出さないでよ。嫌な夢でも見たの?」
「夢?」
「うん。レッスンの途中で急に倒れちゃって大変だったんだよ。ちょっと熱もあるし、魘されてるし、一応心配したんだからね」
「倒れた?俺が?」
「そうだよ、バベルもすごくびっくりした」
真剣な様子から嘘はついていないようだ。だが、さっきまでの記憶がやけにリアルだったせいで、黒羽の頭は軽く混乱していた。
「俺にホワイトチョコレートをぶっかけようとしたんじゃ………」
「はぁ?何言ってんの?」
朔空の顔があからさまに不機嫌に歪む。どうやら、本当に夢だったみたいだ。黒羽は散々な夢を見たとげっそりしつつ、夢でよかったと安堵した。
「イルフルエンザほど高熱じゃないから、風邪か疲労が蓄積したんじゃない?今日は帰って休みなよ。もうすぐUJが車を用意してくれるから」
「そうか、すまない」
「本当に、体調管理くらいちゃんとしてよね」
チクチクと突き刺さる朔空の言葉も気にならないくらい、黒羽はホッと胸を撫で下ろす。それを反省していないも捉えられたのか、朔空はとんでもない事を言い出した。
「まぁ、黒が元気になったらチョコレートプレイでもしてみようか」
「じゃあ、バベルはとっぴんぐをよういするね」
「頼むから、それだけは勘弁してくれ」
本気なのか、冗談なのか。でも、このままだと正夢になってしまいそうな気がして、黒羽は弱々しく悲鳴をあげて、頭を抱えたのだった。
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