Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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珍しくバベルが落ち込んでいた。いや、これは落ち込んでいる…のか?
ライブの打ち合わせを始めてから数時間が経過した。朝からかなり話し込んだから、それなりに構成や演出についてまとまってきたのはいいんだけど、会話の所々に紛れ込んでくるバベルの溜め息の数が尋常ではなくて、ずっと気になって仕方がなかった。
当の本人は無意識みたいだけど、俺と黒はそうもいかない。特に黒は時々眉間に皺を寄せていた程だ。
「バベル、ちょっといい?」
このまま話を続けていても埒が明かない。だから、区切りのいいところで思いきってバベルに話を振ってみたのだった。
いつもの黒なら『雑談なんて時間の無駄だ』って怒るけど、今回は目を瞑ってくれたみたいだ。お咎めの言葉は返ってこなかったから、そのまま話を進めるとこにした。
「さっきからずっと溜め息を吐いてるみたいだけど、何かあった?」
「んー、バベル、ためいきついてた?」
「うん、かなり。ものすごく気になってたんだけど…」
俺の言葉に賛同するように黒も頷く。
バベルは言われて漸く気付いたみたいだったけど、思い当たる事があったみたいだ。一瞬だけハッと目を見開いたかと思うと、しょんぼりと眉を八の字に下げてしまった。
「もしも嫌じゃなかったら、俺達に話してよ?」
「え、でも、これはバベルのもんだい」
「そんなの気にしちゃ駄目だよ。同じグループのよしみだし、相談くらいのるよ」
「あぁ、お前がそんな調子だと話が進まない。さっさと話せ」
「……くろ、さく、ありがとう」
バベルの沈んでいた表情に少しだけ明るさが戻ってた。たったそれだけの変化だけど、見ていて何だかホッとする心地だった。
それにしても、バベルがここまで悩む事なんてあるんだなぁ。
「バベル、ここまえ、あのこにちゅってしたの」
「ん?」
リベルセルクの誰かと何かあったのか、なんて思っていたけど、いきなり惚気話が始まった。
バベルが言っている『あのこ』には心当たりがある。寧ろ、一人しか思い付かない。少し年上のエトワールのスタッフちゃんだ。バベルがあの人を慕っているのは、俺も黒も知っていた。いや、アイチュウなら誰でも知っているかもしれない。
「あのこからあまいかおりがしてた。だから、ちゅってしたらおいしそうだなっておもって、くちびるにかるくきすしたの」
おー、バベルったら大胆なことするなぁ。
「すごく、すごく、おいしかった。だから、がまんできなくてよくばった」
「へぇ………」
普段はぼんやりしてるくせに、時々発揮される行動力には驚かされる事がある。今回もそうだった。
面食らってしまって、バベルの言ってることが上手く頭に入ってきていない。
つまり、スタッフちゃんが好きすぎてキスして止まらなくなっちゃって事……でいいのかな。本当に、何をやっているんだか。
俺だってプロデューサーちゃんにそんなことした事ないとに。ちょっと羨ましい。
「はぁー、お前は何をやっているんだ」
黒も頭を抱えているみたいだ。うん、分かるよ。身内のディープな恋話ってどう反応していいのか困るよね。
「バベル、あのこをなかせちゃった。それから、バベルとめをあわせてくれなくて…。バベルのこと、きらいになってたらどうしよう」
呆れる黒と、苦慮してる俺と、今にも泣き出しそうなバベル。何この空間?
「まぁ、そこまで深刻に考えなくても大丈夫だとは思うけど」
「でも……」
「大丈夫だって。たぶん照れてるだけでしょ」
取り敢えず、バベルの頭を撫でて慰める。俺より大きい筈なのに、今は縮こまっていて小さく感じてしまう。
今はあんまりキツイ事は言わない方がいいだろうから、念のために黒に目を向ける。俺の言いたい事を察してくれたみたいで、黒は小さく頷いた。
「アイドルを目指す者として色恋沙汰に現を抜かす事にはあまり賛同出来ないが、誰だって過ちはおかしてしまうものだからな。次からは気を付けろ」
「そうそう。さっきも言ったけどさ、別にスタッフちゃんに嫌がられたわけじゃないんでしょ?」
「でも、ないてた」
「いや、それは………」
ぶっちゃけ、キスされ過ぎて感じちゃっただけじゃない?
そう言おうとしたけど、黒に脇をどつかれて阻まれた。普通に痛い。
軽く黒を睨むと、シレッと目を反らされた。酷いなぁ。
「ねぇ、黒」
「何だ?」
やられっぱなしじゃ癪だから、仕返しがてら黒を手招く。怪訝そうな顔をしながらも、黒は少し俺の方に振り向いた。その隙に黒の胸ぐらを掴んで、自分の方に引き寄せる。
「おい、何をする。服が延び……んっ⁉」
文句を言おうと開いた口をそのまま塞いでやった。ついでに舌も絡める。
さっきまで俺に撫でられていたバベルに見せつけるようにして、何度も口を重ね直す。
「さ、さく⁉」
これにはバベルも仰天したみたいで、伏せがちだった目を見開いていた。
一方で黒は必死で俺から逃げようとしていたけど、すぐに力は抜けていった。みるみる顔が赤くなって、息継ぎの度に抵抗が弱まっていく。腰を撫でるとビクッと体が跳ね上がって、更に色を増していく。
「っはぁ……朔空、お前、何して……」
「うわぁ、黒ったら厭らしい顔」
「何をふざけて……」
「ふざけてないよ。バベルに教えてあげようと思ってさ」
黒を解放して、バベルの方を見る。
「あのさぁ、今の黒とバベルがキスした後のスタッフちゃんって似てない?」
「うーん……にてるきがする」
「それなら大丈夫。これ、嫌じゃなくて気持ちがいいって顔だから」
「きもちがいい?」
「そうそう」
勝手に話を進められて、黒は何か言いたげな目をしていたけど、呼吸を整えるのに必死みたいだった。ちょっとやり過ぎてしまったかもしれない。
「くろ、だいじょうぶ?」
肩を上下させながら、黒は頭を縦に振る。
「きもちがよかった?」
「⁉」
これには流石に認めたくなかったみたいだけど、心配そうなバベルを見て諦めたらしい。渋々と頷いていた。
そこでようやく、バベルにいつもの明るさが戻ってきた。ふわふわした笑顔浮かび上がる。
「そっか、バベル、きらわれたわけじゃなかったんだ。よかった。さく、くろ、そうだんにのってくれてありがとう」
「いやいや、これくらいならいつでも相談にのるよ」
「あぁ、そうだな」
黒もやっと落ち着いたみたいだ。まだ目は潤んでるけど、めちゃくちゃ怒っている。あ、これはやり過ぎたかもしれないな。
「バベルの悩みも一段落ついたんだ。一旦休憩を挟んで、打ち合わせを再開するぞ」
「はーい」
「了解」
不安がなくなって気持ちが晴れやかになったバベルは、ルンルンと軽い足取りで部屋を出ていく。俺もそれに続こうと立ち上がる。
黒の苛立ちがおさまるまでプロデューサーちゃんのところに行って癒しを補給しよう。
そう思い立って部屋を出ようとしたけど、黒にガッチリと腕を掴まれて邪魔された。
「何するの?俺、プロデューサーちゃんのところに行きたいんだけど」
「行かせると思うか?」
腕を掴む力が強くなっていく。痛いくらいだ。
「黒、顔が怖いんだけど…」
「誰のせいだ?」
「ごめんって。謝るから赦してくれない?」
「赦すわけがないだろう」
あ、これは駄目だな。どう考えても逃げ出せない状況に苦笑する。
そうしている間に、目をギラつかせた黒の顔が近付いてきて…
「次はお前が泣け」
俺の息が止まった。