忍者ブログ

SS置き場

Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。

妖の性

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

妖の性

びちゃ、びちゃ、と粘り気のある水音が聞こえてくる。更に風と一緒に生臭い香りが運ばれてきて、黒羽は顔を顰めた。
「あいつはまた遊んでいるのか?」
「そうみたいだね。秋になって人恋しくなったんじゃないの。バベルって寂しがり屋だからさ」
彼の隣にいた朔空は、特に気にした様子もなく平然としていた。朔空は悪臭の漂っている方を指差す。鬱蒼とした茂みの奥。そこでは、バベルが人間の原型をほとんど留めていない亡骸と向き合って笑っていた。
彼がペタンと座っている地面は、血と肉が散らばり真っ赤に染まっている。彼の体や服は血肉と泥でぐちゃぐちゃに汚れていた。そのおぞましい光景に、黒羽は思わず目を逸らす。
《人形遊び》
バベルのこの行為をいつからかそう呼ぶようになっていた。実際にはそんな可愛らしいものではないのだけれど…。
彼は孤独だ。朔空や黒羽のような妖としての仲間がいても、その孤独は決して埋められるものではない。彼が求めているのは、同じ躰の同胞だからだ。
特に寂しさを覚えた時、彼の一人遊びには手がつけられなくなる。心の渇きとでもいうのだろうか、孤独な心を埋めようと衝動に駆られるのだ。
彼の本当の体はとっくに朽ち果てている。綺麗な髪も、色白な肌も、澄み渡った目も、温かな血も肉も、何もかもが土に還り、残っているのは骨だけだ。今の彼の姿は妖として顕現しているに過ぎず、仮初の姿と言ってもいいだろう。
生きていては意味がない。骨以外の余計なモノを全て奪われた成れの果てだけが、渇いた心を一瞬だけ潤すことができる。
だから彼は人を殺める。自分とお揃いにするために、全てを奪い、貪る。そして、最後に残ったの骨だけの亡骸を愛でる。今はその最中なのだ。
こうなると黒羽も朔空もどうすることも出来ない。過去にバベルを止めようとして、自分達がお揃いにされそうになったくらいだ。だから今はただ離れた場所から、虚しい遊びをするバベルと哀れな被害者を傍観するしかなかった。
「バベルも馬鹿だよね。殺しちゃったら何も出来ないのにさ」
バベルに呆れた視線を送りながら、朔空はぽつりと呟く。
「俺は人間を殺したりしないよ。生かしたまま愛でて、愛でて、愛で抜いて、俺だけを見るようにしてあげるんだ。俺以外を見るなんて許さない。そんなことしたら恨んじゃいそう」
彼の言葉を黒羽はただ黙って聞いていた。朔空もまた、人間に対する執着が熱烈だ。彼の場合は独占欲と嫉妬心。生きたまま、自分だけの愛玩の対象をひたすら愛する。その愛が深ければ深いほど憎悪も増していき、身も心も支配しようとするのだ。
異常だ。しかし、この異常さは妖である彼等にとっては正常だった。それもこれも妖の性(さが)のせいだ。生者を蹂躙するがしゃどくろと、嫉妬に狂う鬼である般若。二人の似て異なる性が狂気を生み出していた。一方で黒羽にはそういった性はない。それ故にこの異常さを受け入れながらも、残虐性を抑えられない朔空とバベルにも、彼らの被害に遭った人間にも憂いを抱かずにはいられなかった。
彼は琵琶そのもの。楽器の付喪神。琵琶は音を奏で、物を語る。喜劇も悲劇も分け隔てなく物語る、ただそれだけだから…。
黒羽はやるせない表情を浮かべ、背にかけていた琵琶を手に取る。そして弦を弾いた。
「あ、今回も弾くんだね」
「あぁ、俺はそれが存在意義のようなものだからな」
少しでもバベルの渇きが治まるように願って。そして、無惨な姿に変わり果てた人間の魂が成仏できるように祈って。黒羽は怪しくも悲しげな音色を辺りに響かせた。
ここには悲劇しかない。どうせ奏でるならば喜劇がいいが、それは永遠に叶いそうにない。
PR

コメント

プロフィール

HN:
雑音
性別:
非公開

P R