今日の黒は弁当を持参していなかった。毎日のように弁当は節約の基本とか言ってたのに珍しい……なんて思っていたけど、理由はすぐに分かった。
「はい、くろ。あんぱん、もってきたよ」
「すまないな」
一体どういう風の吹き回しなんだか。今日はバベルが黒の分の昼食を用意したみたいだ。まぁ、購買で売ってるあんぱんなんだけどね。
「どうしたの、ついに味覚までバベルに絆されたの?」
黒とバベルが仲良くしようと、同じものを食べようと、俺には関係ない。それなのに、バベルと並んであんぱんを食べ始めた黒を見ていると、何ともいえない気持ちになって仕方がなかった。もやもやするような、むずむずするような。嫌ってほどではないけど、スッキリしない。そんな変な気持ち。
だから、気付けば俺は黒に絡んでいた。
「もしかして、バベルにお昼ご飯を奢らせたの?黒ってばひっどいなぁ」
「どうしてそうなるんだ」
いきなり絡まれたらいい気はしないよね。黒はムッとした顔をしていた。もっと酷い顔をしてくれてもよかったんだけど、横にいたバベルがどーどー、と黒を落ち着かせた。
「さく、ちがうよ。これはね、バベルからのおれいなの」
「お礼?」
「そう。くろにはよくあったかいごはんをごちそうにかるから、たまにはバベルがごちそうしたいっておねがいしたの」
「あー、そういう……」
たまにバベルが黒の家で夕食を食べているのは知ってた。節約、節約って煩い黒がどうしてそれを許したのかは分からないけど、バベルなりに気を使ったんだろうな。
まぁ、そういう事なら納得いくけど、やっぱりいい気はしなかった。
「もしかして、さくもあんぱんたべたかったの?」
「はっ?」
「じーって、バベルたちをみてたから」
俺、そんなに二人を凝視してたのかな。少なくとも黒は睨んでた自覚はあるけど……。
「じつは、もうひとつあんぱんをもっているのです。これは、さくにあげるね」
「いや、別にあんぱんが欲しいわけじゃ……」
「バベルはさくにもらってほしい。さんにんでたべるあんぱんは、きっとかくべつにおいしい」
全く見当違いな事を言われて拍子抜けしたのか、にっこり笑いながらあんぱんを差し出してくるバベルに一気に毒気を抜かれた心地だった。俺は何を勝手にピリピリしてたんだろう。
「せっかくだから貰っておけ」
「何で用意してない黒にそんなこと言われなきゃいけないの!」
「ふふっ、えんりょはいらないよ」
そのままバベルにあれよあれよとあんぱんの袋を押し付けられてしまい、仕方なく封を開けた。まぁ、お昼代が浮いたと思っておこう。
先に食事を始めた二人に続いてあんぱんに齧り付くと、胸焼けしそうなくらいに甘ったるい味がした。