その日、バベルは朝から黒羽にべったりだった。同じユニットなのだから一緒に行動するのは普通のことだが、黒羽が休憩中に自動販売機に水を買いに行ったり、レッスン室の鍵を返しに行ったりする時も、バベルはついて回っていた。まるでカルガモの親子みたいに……。
「今日はずいぶんと黒にくっついて回ってるけど、どうしたの?」
はたから見たら微笑ましいし面白い。だが、四六時中行動を共にされて気疲れしてきた様子の黒羽を見かねて、朔空はバベルに尋ねたてみた。もちろんバベルに悪気はないのだろう。彼はニコニコと笑って答えた。
「あのね、きょうのせいざうらないでくろのらっきーぱーそんは、せがたかいひと、だったの。バベルはせがたかいから、くろといっしょにいたら、たくさんしあわせになれるかもっておもったの」
「あー、そういう理由ね」
完全なる善意でバベルは黒羽にくっついていたようだ。実際のところ、その考えは空回って黒羽はげんなりしているわけだけど、当の本人は気付いていない。
疲れてぐったりする黒羽と、えへんと胸を張るバベルはあまりにも対照的だ。
「バベル、お前の気持ちはよく分かった。だが……」
「だから、きょうはバベルがくろのらっきーぱーそんになってあげる!」
しかも、やんわりと断ろうとした黒羽の言葉は、バベルが続けた言葉で見事に遮られていた。そのタイミングの悪さに、朔空は吹き出しそうになるのを懸命に抑えた。
(これじゃあ、ラッキーパーソンなのか、アンラッキーパーソンなのか、分かんないじゃん)
なんて意地の悪い感想はそっと胸の中にしまっておいて、朔空は傍観を決め込んだのだった。