Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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命を失ってから永い時を経た躯に、燃えるような熱が広がる。
ずっと、ずっと、昔に失ってしまったそれに、胸が高鳴る心地だった。実際の心臓などとうの昔に腐り風化してしまっているから存在などしないのだが…。
「あぁ、とても温かい」
怖かった。苦しかった。寂しかった。
気が狂うような歳月の中、魂が負の感情に包まれ彷徨える骸となった青年は、妖艶に笑う。
「もっと、僕に君を分けて。僕を満たして慰めて」
蒼く揺らめく人外の目には、一人の女が映っている。服は大きく破れ、隠すものを失った体を月光が照らしていた。だが、彼女を彩るのは清らかな肌色ではない。赤だ。目を奪われるような鮮やかな赤。それは彼女の胸のあたりからドクリ、ドクリ、と溢れてだしていた。
青年の手が彼女の体を滑る度に、裂かれた肉から新たな赤が滲み出す。彼の手もべったりと汚れていたが、それを眺める目は恍惚としていた。
「ふふっ、君はすごく美味しいね」
青年は赤く染まった指先に舌を絡める。そして、丁寧に舐めとった。生前ならば嫌悪したかもしれない生臭い鉄の味も、今では酷く甘美で彼の舌を楽しませた。
己の手のそれを綺麗に舐め尽くした彼は、身を屈めると彼女の腹に顔を寄せる。少し前まで激しく暴れていたが、今はされるがまま動かない。弱々しく呼吸し、懸命に生にすがり付いているだけだ。
「いい子だ」
柔らかな腹に青年は軽く口付ける。血の気のない唇の隙間から、ギラリと鋭い牙が覗く。
「ここには僕にはないモノがたくさん詰まっているんだね。邪魔だなぁ」
腹を舐め上げ、牙を立てる。一瞬だけ彼女の体がビクリと跳ね上がったが、それからはまた大人しくなった。
青年は一度顔を上げると、女に微笑みかけた。
「大丈夫。ここを暴くのはまだ先だから。君の魂がこの躯を離れてから、ゆっくり、じっくり中身を出してあげる」
女は何も言わない。いや、言えなかった。そんな気力も体力も残っていない。そもそも空気を泣き出そうにも喉から込み上げてくる血ヘドが邪魔をしていた。
彼女は待つしかない。己の生命が事切れるのを、ただ待つしかなかった。
青年はそんな彼女をいとおしそうに見つめる。まるで恋人でも慈しむかのように…。
「君は僕に温もりをくれた。でも、それだけじゃ足りたい。君の全部がほしい。だから、僕と永遠に一緒になろう。
君の体からいらないものを全部取り除いて、お揃いの躯になって、ずっと、ずっと、二人でここで暮らすんだ。ね、素敵でしょ?」
彼の言葉が終わるのとほぼ同時に、ガクンッと女の体が軋む。体に限界がきたのだろう。
青年は女の前髪をかきあげ、露になった額に唇を落とす。それから、耳、頬、唇、首…どんどん下に下りていき、心臓に到達したところで動きを止めた。
「愛しているよ」
うっとりと愛の言葉を囁いて、男は口を大きく開いた。鋭い歯が煌めき、彼女の肉を引き裂いていく。グチャリ、グチャリ、と肉の潰れる音を夜の森に響かせながら、彼は彼女の生命の源である心臓を噛み潰していく。
そうして夢中になっていると、いつの間にか彼女は冷たくなっていた。少し前までこれを包んでいた温もりはもう残ってはいない。
「ふっ、ふふっ……」
だが、青年はとても幸福に顔を歪ませる。心地のよかった温もりはなくなってしまったけれど、その対価を、永遠の恋人を手に入れたのだから。