忍者ブログ

SS置き場

Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。

編み物の話

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

編み物の話

バベルは手芸が得意だ。しかもぬいぐるみや洋服などレパートリーも多い。これまでもいろんな物を作ってきたが、どうやら今は編み物に夢中な様だ。
「もう編み物を始めているのか?」
まだ編み物をするには早いのではないか。そんな疑問を抱きつつ、黒羽はバベルに尋ねた。
季節はとっくに秋である。しかし、未だに夏の気配は消えず、クーラーが無ければ汗ばんでしまう日が続いていた。今も窓から差し込む日差しが強くてカーテンを閉めているくらいだ。もちろん、その程度では暑さは凌げない。それなのに、目の前で暖かな毛糸を編み続けているバベルのおかげで視覚的な暑さがどんどん増していく一方だったのだ。
「あみものしたら、だめだった?」
「いや、そういう訳ではないが……」
今は休憩時時間だから何をしても構わない。しかし、これ以上暑くなるようなことをしてほしくないというのが黒羽の本音だ。
朔空も黒羽と同じ気持ちだったのか、いつの間にか休憩室から出て行ってしまっていた。ただ単にプロデューサーを追いかけに行っただけかもしれないが、黒羽の傍を通り過ぎて行った時に、彼の頬を汗がダラダラと伝っていたのは気のせいではないだろう。
そんな中で、バベルだけは暑そうな気配が全くないのだから不思議だ。
器用に毛糸の輪に編み棒を潜らせていくバベルの表情は真剣そのものだ。一定の速さで指を動かしつつ、視線は真っ直ぐ編みかけの手袋に向けられている。そのままの状態でバベルは口を開いた。
「さむくなるまえに、くろと、さくの、てぶくろをかんせいさせたいから、がんばってるの」
「俺と朔空?お前の手袋じゃないのか?」
てっきり彼自身の物を作っているのだと思っていた黒羽は、自分の名前が出てきたことに虚を突かれて目を丸くした。
バベルは頷く。
「じつは、くろと、さくに、してほしいことがあるのです」
さっきまで真剣な眼差しをしていた目に、柔らかな優しさが浮かび上がる。
「さむくなったときに、てぶくろをつけてぽかぽかになったてで、バベルをあたためてもらいたいんだ」
そこまで言って、バベルは口を閉じた。その口角は僅かに上向きで、微笑みを携えている。
そして、しばらく黙々と編み針を動かして編み返しのところまで進めたところで、バベルの手が止まった。まだ編み始めたばかりの段階だからどんな形で、どんな色で、どんな模様に仕上がっていくのかは分からない。だが、使われている毛糸の色が深い赤であることから、黒羽のものなのだろうと予想出来た。
バベルはふーっと息を深く吐く。彼の視線が編み物からゆっくりと離れ、黒羽の方に向けられた。とても優しい目の奥で、期待に満ちた光がキラキラと輝いている。
「ねぇ、くろ。さむくなったら、バベルとたくさんてをつないで、たくさんバベルをあたためてね?」
辺りをじわじわと支配する熱気とは対照的な涼しい色彩を携えるバベルの瞳に吸い込まれそうになる。しかし、冷たい水を思わせるそれに見つめられても、黒羽の体が涼しくなることはなく、寧ろどんどんと暑さは増していくばかりだ。終いには耐えきれなくなって、黒羽はバベルから視線を逸らしてしまった。
「考えておいてやる」
そう答えるのが精一杯だったが、バベルは冬が楽しみだと言わんばかりに笑っていた。
体が熱い。さっきよりもずっと熱い。黒羽は額から滴り落ちてきた汗を拭う。せめて喉の乾きだけでも和らげようとペットボトルに手を伸ばしたが、とっくに温くなっていた。
黒羽は憎々しげに照りつける太陽を睨んで八つ当たりする。早く涼しくなってしまえと心の中で悪態を吐く。しかし、涼しくなればバベルのお願いを叶えることになるのだと気付き、余計に体を熱くさせたのだった。
PR

コメント

プロフィール

HN:
雑音
性別:
非公開

P R