Twitterで書いた二次創作SSを載せていくだけの場所。 夢も腐もある無法地帯。
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「やくづくりのてつだいをしてほしい」
バベルにそう頼まれて、内容も何も分からないままにレッスン室へとやって来たのだが、一体これはどういうことなのだろうか。
部屋に入るなり手を引かれ、そのまま視界は反転して。体は支えられていたみたいで、背中を強く打ち付けるようなことはなかったけれど、精神的な衝撃は大きかった。
彼にしては酷く強引だと驚いたが、自分を見下ろすその面立ちで考えを改めた。
いつもの柔らかい笑顔の彼はそこにはいなくて、所謂ライブモードの彼が含みのある笑みを浮かべていたからだ。しかも綺麗な淡蒼色の瞳の奥にギラついた光を感じて、背筋がゾクリと粟立った。
「えっと、これは一体……」
ふと、当初の目的を思い出す。これは役作りに必要なことなのだろうか。
何となく嫌な予感がして、恐る恐る彼を見詰めていると、とんでもない物が視界に飛び込んできた。
鞭だ。
しかもオモチャのような簡素な作りの物ではない。艶やかな黒革の本格的なもの。どう考えても自分に使う為のもの。そう理解した途端に血の気が引いた。
「ふっ、一体何を想像した?」
一方でバベルは目尻を歪めて笑っていた。演技なのか、本心なのか。全く見抜けない。
それが無性に怖くてガタガタと体が震えだす。そんな私に気付いたのか、そっと耳元で囁かれた。
「安心しろ、痛い事はしない」
とても甘い声色だ。いつもなら蕩けてしまっているだろう。でも、この日はそれよりも恐怖が勝ってしまっていた。
怖い、怖い、怖い。
涙が自然と滲み始め、彼の姿をぼやかしていく。思考が恐怖に満たされていく。バベルは何か言っているみたいだったが、全く頭に入っては来なかった。頭の中が一気にこんがらがっていく。
しかし、バシンッと空を切り裂くような音に嫌でも我に返らされた。
「よそ見をするな。俺を見ていろ」
顔のすぐ真横の床が鞭打たれた。まるで悲鳴みたいなその音に、体が竦み上がる。同時に、今の彼の機嫌を損ねてはいけないと本能的に理解した。
喉の奥から溢れ方な嗚咽を堪え、懸命に彼を見詰める。そのまま緊迫した時間が刻々と流れ、ふと彼の手が伸びてきた。
次は何をされるのか。叩かれるのだろうか。痛い事はしないとは言っていたが、心は穏やかではなかった。
彼の指先が目元に触れる。涙が掬いあげられ、彼の顔がハッキリと見えた。鋭く細められた双眼が私を突き刺す。
「そう怯えるな。そんな顔をされると虐めたくなるだろう?」
クツクツと喉を鳴らして笑う彼はただただ楽しそうだ。たまに鞭をちらつかせながら、彼の指が目から頬、顎にゆっくりと滑り落ちていく。
「どうした、抵抗しないのか?少しくらい噛みついてもいいんだが?」
そんなこと出来るわけがない。そう視線で訴えかけると、彼の目がスッと細められた。
「調教する楽しみがないのは残念だが、従順なのは嫌いじゃない。いい子には褒美をやらなければなぁ」
唇のラインを親指でなぞられる。それだけでも触れられた箇所がビリビリと痺れた。
彼の顔が近付く。目を閉じてしまいたいが、怒らせるのが怖くて出来ない。
恐怖のせいか、羞恥のせいか。心臓が破裂してしまいそうなくらいに暴れている。痛くて苦しい。また涙が溢れてきそうだ。
そんな私にお構いなしに、互いの吐息が混ざり合うくらいに口先が接近して………。
「どう、バベルえんぎ、こわかった?」
「えっ……」
さっきまでとうってかわった辿々しい口調に、私は耳を疑った。
直後、ふわりと体が浮き上がる。背中に感じていた冷たさが啼くなって、代わりに人の温もりが広がっていく。
あまりにも急展開過ぎて、もう何が何だか分からないが、さっきまで全身にまとわりついていた緊張感はなくなっていた。
ぽかんとして固まっていると、もう一度涙を拭われた。次に見た彼は、いつもの優しい彼だ。私の唇を弄んでいた手はいつの間にか頭に移動していて、子供をあやすように何度も撫でられた。
ギャップといえばいいのか。急激な切り替えに思考が追い付かない。
何と声をかけたらいいのか。安心するべきなのか、怒るべきなのか、笑うべきなのか。自分の気持ちすら分からない。
そんな私に、バベルはふわりと微笑みを讃えながら追い討ちをかけてきた。
「ねぇ、バベル、きみをちゃんとしはいできてた?」
酷く反抗的な目が俺を見上げてくる。その身を拘束されて、無様にも床に這いつくばり、荒息をたてるそいつの姿は、まさに獣だった。
「中々似合っているじゃないか」
「てめぇ……何のつもりだ」
「そんなの分かりきっているだろう、躾だ」
「はぁ?躾だぁ?ふざけたこと抜かしてんじゃねぇよ」
わざわざ猛獣に相応しいようにと口輪をつけてやったのに、それでもこいつはギャンギャンと吠えたてて煩くて仕方がない。まぁ、いきなり拘束されて獣同然に扱われれば俺でも不愉快にはなるのだが、今はそんなことはどうでもいい。
折角こいつを捕らえたんだ。さっさと主人が誰なのかを思い知らせてやらなければ。
「あまり生意気なことはするな。酷くするぞ」
牽制の意味を込めて、奴の首輪に繋がったリードを引く。軽く首が圧迫されたのだろう、少し奴の声が小さくなった。
「はっ、やれるもんならやってみろ」
「そうか、お前がそう言うなら仕方がない」
こいつの性分だ。初めから素直に従属するとは思っていなかったが、これは中々に骨が折れそうだ。仕方なくさっきより強くリードを引くと、流石に息が詰まったのか大人しくなった。
さて、こいつはどのくらい躾れば大人しくなるだろうか。いや、そう簡単に心が折れてしまっても面白くない。いかにこのまま買い殺せるのかを楽しんだ方がいい。
しばらくしてから手の力を緩める。ようやく呼吸の赦されたこいつは、吠えることも忘れて懸命に酸素を求めていた。その姿があまりにも滑稽で、思わず笑いが込み上げそうになる。
「さて、自分の身の程は理解できただろう」
「くっそ……」
涙を浮かべた目で睨まれても何も怖くはない。寧ろ、加虐心を駆り立てられて仕方がない。
さて、まずは手始めに何をしてもらおうか……。
「獣らしく、主人に愛想よくすり寄ってみろ」
側にあった椅子に座して、奴の口輪を爪先で押し上げる。まだ息が整わないこいつは、文句こそ言わないものの、低く唸りをあげていた。
奴の瞳の奥では反抗の炎が燃えたぎっている。まるで煉獄だ。
今、この口輪を外そうものなら容赦なく噛みついてくるに違いない。それも構わないが、今はこの姿を堪能するのもいいだろう。